生物科学実験II、生物学実験II
生物個体群の種内・種間の形態変異パターンの解析を体験的に理解、習得することを目的とする。各人に与えられた貝類(二枚貝類)のサンプルについて、観察、計測、集計などの作業を行い、解析の結果をレポートにまとめる。ここでは広く用いられている表計算ソフトである Microsoft Excelと、統計解析用のフリーソフトRを用いる。
Excelは一般的な表計算ソフトで、データの編集、作図を直感的かつ視覚的に行うことができ、有用な関数が多数利用可能である点が優れているが、その一方で複雑なグラフの作図や統計解析にはあまり向いていない。Rは基本的な統計解析から先端的な統計解析までをカバーする最も汎用性の高い統計解析ソフトの一つだが、慣れればデータの集計や作図まで、ほぼ全てのデータ解析過程に活用することができる。ただし、データの取り扱いには行列操作が必要になる点や、コマンドラインでの解析の実行は、特に初学者にはハードルが高い。本実習では、この二つのツールを場面によって使い分け、基礎的なデータ解析法を習得することを目標とする。
生物測定学(biometry)または生物統計学(biostatistics)は、生物の種々の形質、特性を定量的に測定、解析する学問である。 生物学の 1分野というよりは、生物科学の諸分野で定量的な資料から客観性の高い結論を得るための普遍的な手段である。その初歩的な考え方と方法を体験的に学ぶ。このような手法の習得は、あらゆる定量的データの科学的処理や実験の計画、さらに実社会での製品の比較や品質管理などの業務に役立つと思われる。
事前に最新バージョンのExcelが動作する様にしておく事(JINDAIアカウントに紐づけられるOffice365を利用して無料でインストールする事ができる)。また、Rを事前にダウンロード、インストールして、使えるようにしておくこと。Rのダウンロードは以下のリンクより行うこと。Rのインストールは、全てデフォルトの設定で行う。
Windows PC版
Mac PC版
基本的にはデフォルト設定で、全て「次へ」でOK。
個体群(population)は生物の生活の基本単位である。遺伝、生態、分類、進化を考究するときにも、同じ場所で繁殖社会をつくっている自然の個体群の性質を認識することが基礎となる。自然界の個体群は一般に全個体を調べることができないから、個体群からランダムに抽出されたサンプル(sample)を解析して個体群の性質を推定する。サンプルは、本来は各人が野外で生態を観察しながら母集団からランダムに抽出するべきものである。しかし、ここでは時間の都合であらかじめ準備したもの(旧金沢研究室所有の二枚貝類標本)を用いる。それぞれのサンプルは同一の産地でランダムに採集されたと考えてよい(他人のサンプルと混合したり、持ち帰ったりしないこと)。各人はそれぞれ別個のサンプルについて、独自に計測データを得て解析する。課題の結果もサンプルによって少しずつ異なる。原則として、種内・種間の形態変異パターンの解析をこのテキストに沿って行う。
形態変異は何らかの形質(character)を対象として解析する。形質にはさまざまなものがあるが、年齢の不揃いなサンプルの変異の解析には成長にともなって変化しにくいものを選ぶ必要がある。例えば、殻の大きさや重量そのものは、成長にともなって次第に増加するから、変異の解析として集計しても意味がないことが多い。これに対して、長さと高さの単純比(simple
ratio)や相同的な器官の数は、成長にともなって変化しにくいと考えられるため、個体変異を表す形質として扱うことができる。二枚貝の外表にしばしば見られる放射肋(ほうしゃろく)の数は、もし分岐や挿入がなければ、意味のある形質となる。これらは1変量形質(univariate
character)または2変量の単純比を1変量形質として扱うものである。この他に2変量形質(bivariate
character)、多変量形質(multivariate character)を解析することもある。
大部分のサンプルには種名が一応与えてあるが、異なった種が混合していないか各自で確かめること。複数種が混合している可能性がある場合には、種名が正しいか計測終了までに随時インターネットでの検索やスタッフへの確認などで確かめておくこと。また、種名カードが箱に入っていない場合には、インターネット等で種名を検索し、種名の特定を行うこと。属名や種名は図鑑の著者の見解によって異なることがあり、変更されている事もある。
二枚貝はその生活様式を大まかに次の3種類に分類することが出来る:①堆積物に潜るタイプ、②堆積物の表面で生活するタイプ、③基盤に付着するタイプ。ここでは、①の生活様式を持つ種をAグループ、②と③の生活様式を持つ種をBグループとして、自分のサンプルがAとBのどちらの生活様式グループに属するかを以下の図Aを参考にして判定する。
図A
生活様式AグループとBグループの判別方法。
二枚貝には、前後対称の種はない。ハマグリのようにほぼ左右対称の種が多いが、ホタテガイのように左右非対称の種も少なくない。以下の識別点を参考にして、二枚貝の方位(前後左右)を認識し、左右の殻を区別する。分からない場合にはスタッフに確認する。
長さ(L)、高さ(H)、厚さ(T)、右殻厚さ(TR)、左殻厚さ(TL)をノギスで計測する。作業を開始する前に、貝の基線とノギスの操作方法を確認しておくこと。ノギスの操作・計測に1つでも誤り(表示値の読み違い、転記ミスなど)があると、以後の作業がすべて無駄になる可能性があるので十分注意すること。先に定めた基線に平行または直交する方向にLとHを測定する(図B)。合弁の個体は、まず殻を合わせた状態でTを計測し、次に右殻と左殻を別々に計測してTR、TLとするのがよい。T=TR+TLにならないことが多いが、それは差し支えない。二枚貝類の殻の厚さはノギスでは測りにくいが、補助板を当てるなど各自で工夫すること。補助板を用いる場合には、補助板の厚みを測定し、後で補助版込みの測定値から差し引くことで補正しておくこと。LとHは左右共通の値として、左右いずれかの殻に決めて測定を行う。計測は独立に2回行って数値を個体ごとに集計用紙に記録する。5個体ずつを一つのブロックにし、5個体についての1回目の計測が終わったら、同じ5個体について2回目の計測を行い、2回の計測が終了した後に、次の5個体のブロックへと進めるようにする。使用しているノギスの精度に応じて、小数点以下1桁もしくは2桁で記録を行う。
各自に割り振られた貝について、基線の位置、L、H、T、TR、TLの測定位置を写真もしくはイラストにして提出すること(課題1, Wordファイル)。
図B
計測部位の例。L:殻長、H:殻高、TR:右殻厚